最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)140号 判決 1990年7月05日
東京都台東区柳橋二丁目一四番四号
上告人
たからや物産株式会社
右代表者代表取締役
多々良裕賢
横浜市中区尾上町一丁目八番地
上告人
株式会社新井清太郎商店
右代表者代表取締役
新井清太郎
東京都墨田区本所三丁目二五番三号
上告人
株式会社ユーナイト
右代表者代表取締役
臼井優
右三名訴訟代理人弁護士
濱野英夫
伊藤真
名古屋市西区名駅三丁目七番一五号
被上告人
楠玩具株式会社
右代表者代表取締役
楠孝次
右訴訟代理人弁護士
増岡由弘
右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第一〇一号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年七月一八日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
"
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人濱野英夫、同伊藤真の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)
(平成元年(行ツ)第一四〇号 上告人 たからや物産株式会社 外二名)
上告代理人濱野英夫、同伊藤真の上告理由
一 (一) 本件審決は、
「一方の部材に設けた多角形の嵌合孔に、他方の部材に設けた前記嵌合孔に対応する多角形の突出部を嵌入させて二つの部材を回動不能で位置決め容易に結合手段(イ)」および、
「一方の部材に設けた嵌合孔に他方の部材に設けた突出部を嵌入させて二つの部材を結合する手段において、前記嵌合孔の内周面に突起や溝を設けたり、前記突出部に突起や膨出部を設けたりして抜け止め作用を付与する結合手段(ロ)」
は、いずれも本件考案の出願前に周知のものであるが、
「本件考案は、分枝幹体の枝取付片と枝体との着脱自在な結合に前記結合手段(イ)と結合手段(ロ)、を併用する仕方として、・・・・・本件考案の構成を選択したことにより、枝体をその軸回りに回動させた任意の位置に自在に位置(決)めして枝振りなどを容易に変化させることができるとともに、嵌合状態が確実になって不用意に外れたりすることがないという効果(a)を奏するものである。
組立式クリスマスツリーの組立は、一般には、子女などによって年一回行われるような作業であるから、枝振りなどを容易に変化させることができ、不用意に外れることがないという前記(a)は格別のものというほかない。」
と認定判断している(本件審決書一四および一五頁参照)。
そして、原審判決は、右審決の認定判断を検討したうえで、
「以上のとおり、本件考案は、分枝幹体の枝取付片と枝体との着脱自在な結合に、結合手段(イ)及び(ロ)を併用し、その相乗作用によって効果A[注 前記審決認定の効果(a)と同じ]を奏し得ているものであるところ、・・・・・各引用例には結合手段(イ)と(ロ)を併用したものは認められない。
そして、枝振りなどを容易に変化させることができ、かつ不用意に外れることがないという前記効果Aは、その用途からみて、格別のものというべきであり、この点における審決の認定、判断に誤りはない」。
として本件審決を是認している(原判決二九丁裏から三〇丁表にかけて)。
(二) 本件審決も原審判決も要するに、本件考案は、いずれも公知の結合手段である(イ)および(ロ)を併用することによって格別な効果Aを生ずるから考案性が生ずる、とのべているものと解される。
けれども、結合手段(イ)によってもたらされる効果は「回動不能で位置決め」できる効果であって、「枝振りなどを容易に変化させること」や「不用意に外れることがない」という効果とはかかわりのないことである。つまり結合手段(イ)は審決や原審判決がいう効果Aには何ら寄与していないのである。「枝振りなどを・・・・・変化させる」のは人が手で行うことであり[その際結合手段(イ)は障害になりこそすれ「容易」にするものではない]、また、「不用意に外れることがない」という効果は結合手段(ロ)によってもだらされる効果である。したがって結合手段(イ)および(ロ)を併用することによって効果Aが生ずるとした原審判決には理由の齟齬があるといわざるをえない。また、「枝振りなどを容易に変化させ」たり、「不用意に外れることがない」という効果は、いずれも周知技術である(ロ)のみによってもたらされるものであるから、(イ)および(ロ)の「相乗作用」によって効果Aを生ずるとしたり、効果Aは「その用途からみて、格別のもの」とした原審判決の判断は実用新案法第三条第二項の規定の解釈適用を誤ったものというべきである。
二 (一) 原審判決はつぎのとおり判示する。
「・・・・・右事実によれば、本件考案は、右鉢体の支持孔に取り付けられた基幹体の下部に鍔部を形成することにより、樹木の支持を堅固(に)しているものであることが認められる。
他方、前掲甲第二号証によれば、第二引用例の、特に第七図(・・・・・)より認め得ることは、中空角心棒に外挿される幹体が下方に行くに従って漸次に拡大する形状を示していることでしかなく、右幹体の最下部のものが、本件考案における第1基幹体と同様、鉢体の支持孔に取り付けられる状態にあり、かつ、右幹体の拡大部が鍔状になっていることまでは認めることができず、また、第二引用例の記載を検討するも、第二引用例には鍔部を形成することの技術的課題及び作用効果に関する記載は全くない。
したがって、第二引用例には、本件考案における、鉢体の支持孔に取り付けられた基幹体の外周下方部を漸次に拡大するように形成した鍔部を鉢体の支持孔の上端面に当接支持させる構成は開示ないしは示唆されておらず、原告らの前記主張は理由がなく、相違点(二)についての審決の認定、判断に誤りはない。」(判決書三三丁裏から三四丁表参照)
(二) 「鍔部」とは、要するに、底面を平板に形成し、その山形上部を裾野状に収れんさせた形状の物体のことであって、本件考案においては基幹体の根端部にこのような形状の部分を設けているおけである。この鍔部を設けることによって基幹体における鉢体上端面との当接底面を、幹体の断面より大きくすることができ、これによって基幹体自体の安定性を増大させ得るものである。
本件考案における鍔部は、その実施図面(原判決書添付別紙図面一参照)においてみる限り、前記収れん部がかなり短いものとして描かれている。けれどもこれは一つの実施例にすぎないから、この収れん部がより長いものであっても前記の効用を発揮するものであればこれを「鍔部」と称しても誤りではないであろう。
他方第二引用例における基幹体相当部分は、下方へ行くにしたがって漸次拡大していることが視認できるから、もし、これの底面が平板状になっているのであれば、前記の「鍔部」と同様の効果を奏するから、最下部の鋭角的周端部を「鍔部」とよぶか否かは言棄の選択上の問題に帰すことになる。
(三) そこで、第二引用例における基幹体相当部分の最下端底面が、鉢体上端面に当接するよう平板状に形成されているか否かを検討してみるに、たしかに甲第二号証の記載および図面からはこの点は明確にはならない。けれども問題は、甲第二号証の技術的範囲を確定することにあるのではなくて(したがって原審判決が第二引用例には鍔部を形成することの技術的課題及び作用効果に関する記載がないといっているのは問題の焦点をはずしているものといわざるをえない)、このような公知文献を見た当業者が、本件考案における鍔部を容易に想到しうるか否かという点にあるのである。
そこで、素人ではなく、当該分野にたずさわる者が、甲第二号証の図面を見た場合に、鉢体に接する基幹体相当部分の底部が如何なる形体において結合しているであろうかを考えたとき、幹体下部を鉢体の外に残してパイプ状心棒のみを鉢体内部に挿通させ、そして幹体の最下部を鉢体の上端面に平板状に当接させることを理の当然として思いつくのではなかろうか。ことに甲第一号証の公知文献と併せ見たとき、幹体の底面が鉢体の平板な上蓋に接するには平板な底面でなければならないのは理の当然であり、また、鉢体内部に挿通するものが心棒だけであって、心棒の外郭を形成する幹体までは挿通させないというのが、きわめて当り前な思考であるというべきである。
この点において、第二引用例のみをみて第一引用例を検討せずに「・・・・・鍔部を鉢体の支持孔の上端面に当接させる構成は開示ないしは示唆されて」いないと認定判断した原審判決には、理由不備、ならびに、実用新案法第三条第二項の規定の解釈適用を誤った違法がある。
三 (一) 原審判決はつぎのとおり判示する。
「ところで、本件考案が第二心棒を円柱状に形成したことによる効果については、前掲甲第一三号証及び甲第一四号証によるも、本件考案の詳細な説明にはこれが記載されているものとは認められない。
しかしながら、本件考案の第二心棒を円柱状に形成することによって、これに外挿された状態において自在に軸回りに回動させることができるという作用効果を得ることは、本件考案の詳細な説明に直接記載されていなくとも、本件考案の前記構成から当業者が容易に理解し得るところであり、本件考案の構成から自ずと明らかな作用効果である」。
(二) しかしながら、明細書に記載のない特定の効果を考案の構成から推定することは、許されないというべきである。けだし、考案者は考案の構成からそのような効果については想到しなかったのであり、そのような効果を生ずるか否かについては未定な状態にあるからである。
本件に即していえば、第二心棒に外挿される幹体等は、「着脱自在に外挿される」ものとはされているが、回動自在に外挿されることは記載されておらず、これら幹体等が回動自在であるか否かは「円柱状」の「第二心棒」という構成だけからは必然的に帰結しえないからである。円がやや楕円であったり、円周面に突条があったり、強度な圧嵌であったりすれば外挿された幹体等は容易には回動しないことになる。
そして、右のような回動障害となる技術的条件は、本件考案の目的との関係においては必須要件には当らないものとして記載されなかったということもありうるからである。
以上のとおり、原審判決は本件考案の作用効果についての認識を誤り、これに基づいて公知技術の評価を誤り、ひいては実用新案法第三条第二項の規定のの解釈適用を誤ったものというべきである。
以上